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Layers coffee / 熊本

―About Layers coffee

熊本市中央区、仕事や学校に向かう人たちで忙しい白山通りに突如現れる、大きなガラス窓が特徴的な建物。住宅メーカーCLAMPYが手掛けたガレージを思わせる開放的な空間の一角に、長崎出身の山浦と東島がカウンターに立つ「Layers coffee」はある。二人は小学校から高校までをともに過ごし、一度はそれぞれ別の道に進んだが、コーヒーのもとでまた同じ道を歩み始め20215月にLayers coffeeをオープンさせた。
店内にある重厚感のあるカウンターは、座るとバリスタと同じ目線になるように設計されている。コーヒーを抽出する過程を間近で体験でき、豆を挽いてお湯を注いだ瞬間の華やかな香りが開く瞬間がたまらない。飲み物としてのコーヒーにとどまらない体験ができ、魅力的である。
また同じフロアにはフラワーショップやグリーンショップが並び、花と植物の彩りが心躍らせる空間となっている。

 

-“Our journey” 

「オーストラリアのコーヒーカルチャーに魅了された」
もともとコーヒーを好んで飲むほど好きというわけではなかったんですけど、大学時代に留学で訪れたオーストラリアで、そこのカフェに魅了されてしまって。 オーストラリアのカフェに行くと、一人でふらっと入ってきた外国人の僕に対してバリスタの方がすごく優しく声を掛けてきてくれたんです。一人で寂しくコーヒーを飲むしかないかなって思ってたんですけど、フランクに話しかけてくれて居心地がよかったというか、異国の地で自分の居場所ができたみたいに感じたんです。
その後帰国して会社員をしていたんですけど、その時職場で感じたことだったり、うわって思ったこととかを話せる同期がまず一人もいなくて。その中で「こういうことがあったんですよ」って話せるのがカフェのバリスタだったんです。全然会社とは関係のない人に、それもアルコールもなしに素で話せる場所って全くなかったのでとても居心地がよくて。そういう場所を自分もつくりたいと思ってカフェのオープンを考え始めました。
山浦 公大郎 さん
                               
「コーヒー片手にみんなと過ごす時間が最高に楽しかった」
正直最初はコーヒーを飲むことが好きというよりも、コーヒーがある環境が好きという感じだったんです。というのもコーヒーを片手にみんなで楽しく会話をする場が好きというか。大学生の頃に、二人で店舗を貸切ってコーヒーの軽いイベントをやったんです。その時に想像以上に友達がいっぱい来てくれて。その時はお金のこととか何も考えていなくて、赤字だったんですけど(笑)その時間が最高に楽しかったんです。
卒業後は東京でコーヒーとは関係のない業界でマーケティングの仕事をしていました。その仕事をしながらも、ずっとどこかで自分たちのコーヒーショップをもちたいという想いはあって。そこでコーヒーの勉強のためにオーストラリアにワーキングホリデイで行く予定だったのですが、コロナでいけなくなってしまいました。その時にはもう仕事を辞めてしまっていたので、どうすることもできず。その時に今お店のあるテナントを管理していらっしゃる社長さんから声をかけていただき「人と人、人と街を繋ぐ」というポリシーに共感し、オープンを決意しました。
東島 優太さん
                                
文中敬称略

―What‘s Layers coffee?

車通りが忙しい白山通り。信号待ちの人たちの視線は大きなガラス窓からのぞく空間に向けられる。赤い車、形がユニークな観葉植物、カラフルな花、そして大きなカウンターとグラインダーやエスプレッソマシン。「何屋さんなんだろう」と窓から店内をのぞく人たちの興味を掻き立てるここは、CLAMPY。住宅メーカーが手掛けた洗練された空間の一階にLayers coffeeはある。
店内はコンクリートの床と、グレー、ブラック、シルバーを基調としたアイテムが揃えられており、シックでかっこいいという言葉がよく似合う。大きなガラス窓からは暖かい日差しが差し込み、思わずほっとひと息をつきたくなるような雰囲気が心地がいい。
Layers coffeeを訪れる人たちは思い思いの時間を過ごしている。陽が当たる席で読書に勤しむ人、カウンターでおしゃべりを楽しむ人、ハンモックに揺られながらはしゃぎ声を上げる子供たち。“Layers”という店名には「お客さん同士が層として重なっていってほしい」という希望が込められているという。
“Layer”って層っていう意味があるじゃないですか。うちに来てくださるお客さんは性別も違えば年齢も違うし、その人の経験を含めた背景ももちろん違う。そういう人達がここに集まったときに、それぞれが独立したレイヤーになるんじゃなくて、Layers coffeeという場所でひとつの重なった層になるような場所になればいいなという願いを込めています。」   世代や性別をはじめとした様々なバックグラウンドを超えて交流が生まれる場所にしたい。 この想いは二人の語りに一貫して見られ、その想いの強さがうかがえる。
「そういう意味では“Layers”って複数形なんです。層がひとつではなく重なっている感じ。コーヒーショップってバリスタとお客さんっていうイメージだけど、Layers coffeeっていう空間にセパレートは一個もないです。お客さんとバリスタではなく、人と人で話していきたいんです。」
複数形の“Layers“、バリスタとお客さんということは関係なしにそれぞれが一つのLayerとして重なる。なるほど、こういうことか。カウンターでお客さんと談笑する二人の姿は、まさにLayers coffeeを体現していた。  

 

 

―What’s your concept?

個人的な話だが、私はお店を訪れるときそのお店のコンセプトは何だろうと考えることが好きだ。「きっとこんなことを考えてこの食器を選んだんだろうな」とか「この空間にはこんな想いがこめられているのかも」といったことを妄想する。 この機会に二人にLayers coffeeのコンセプトを聞いてみた。すると意外にもコンセプトを練りに練ってきたわけではないという。
「最初からコンセプトを深く突き詰める必要もなかったのかなと、今は思っています。結局どういう人たちが来てくれるのかって、正直やってみないとわからないというか。やっぱりお店は僕たちだけでつくられる空間ではないですよね。少しずつ街に馴染んでいきながら、コンセプトが確立されていければいいなと思います。まだちょっと輪郭がぼやけているけどそれはそれでいいのかなと。」
 自分たちの理想を押し付けたいわけでもない、それぞれが思うLayers coffeeという空間でいい。Layers coffeeを訪れる人たちそれぞれに心地よい時間を過ごしてほしいという想いが、コンセプトを敢えて急いで確立させない理由かもしれない。さらに二人は味だけで勝負したいわけではないと語る。 「美味しいコーヒーを出すというのは僕たちにとって大前提です。それと同時にLayers coffeeの山浦と東島という人間をもっと知ってほしい。まずは一度ゆっくり話しましょう。なんて。」
 

―What’s your policy?

 Layers coffeeでは浅煎りのコーヒーを中心に取り扱っている。果実の甘さとキリっと引き締まった酸味のバランスがちょうどいいコーヒーから、深い甘みととろっとした舌触りが特徴の丸みのある優しいコーヒーまで。「浅煎りは酸っぱくて苦手かも」という印象が塗り替えられるようなコーヒーが並ぶ。この日は浅煎りのエチオピアをいただいたが、花を思わせる香りと、紅茶のような風味が広がり飲みやすい。思わず美味しいと声が漏れ出てしまった。どのような想いで二人はコーヒー豆の仕入れや焙煎を行っているのだろう。
 
焙煎を担当する山浦はコーヒー豆の本来の味と生産者のストーリーをどうやって伝えるかということにこだわっているという。
 
「コーヒーは生産者の方が頑張ってるから美味しいっていう、俺らが頑張ってるから美味しいんじゃないといつも思っています。生産者の方が育てた豆の個性を最大限に伝えるということに対して今の僕ができることは浅煎りで表現するしかないんです。もっと言えば、本当は深煎りでもそれは表現できると思いますが、今の僕の技術的なものを考えると浅煎りで表現することがベストなんです。でもこれからは様々な焙煎度合で表現していきたいです。」
 
山浦の今のこだわりはスペシャルティコーヒーの導入になるようなコーヒーを届けることであるが、今後は徐々に浅煎りの個性的な特徴も伝えていきたいと語る。
 
「今は接しやすいコーヒーということを意識しています。今後浅煎りに抵抗がないという感じになってきたら、もっと個性バチバチなやつを出していきたいですね(笑)」
 
 

―What’s your future vision?

訪れる人の気持ちに寄り添いながら、コーヒー本来の味を知ってもらうためにコーヒーを一杯一杯提供し続ける二人。その二人に今後どのようなことに取り組んでいきたいのかを聞いてみた。
 
「まずは生産地にいって生産者の方に直接お会いしたいです。日本のスーパーとかではOOさんちの野菜みたいな感じで並べられていて、生産者の顔が見えるじゃないですか。僕たちはコーヒーもそうなっていいんじゃないかと思います。」
今は商社から購入した生豆を自家焙煎して提供しているLayers coffeeだが、将来的には生産者のコーヒー生産への情熱やこだわりを、お客さんに繋げたいという想いが伝わる。
 
「商社から購入したコーヒー豆って、この豆はウォッシュドなんですよというような商社にもらった情報からしか説明できないんです。それだけだと少し寂しく感じてしまいます。本当ならまず自分たちが生産者の方のことをもっと知って、理解して、直接今年この豆めっちゃ売れましたよ!とか言いたいんです。」
多くのロースターも同じように生産者と直接関わることが大切と思っている人がだと増えているようだ。そのような周囲の意識の変化の中で、二人の生産者の方のストーリーを知りたいという想いは膨らんでいる。
 

―What’s your hope?

最後に二人に今後のコーヒー業界に期待することを聞いてみた。
「個人的に、デジタル化が日々進んでいて物質的な繋がりというか、人と人との関係の希薄化とかが目に見えて進んでいると思っています。
本当に何でも買えちゃう今だからこそ買えないものの価値に目を向けていきたいです。もっと言えば逆にコーヒーショップでのリアルな体験っていうところに戻ってきてほしい、そう思います。」
 
ライター : 島崎 美空